~トップランナー対談 その1~

「データには新しいアイデアを生み出す力がある」

インターネットの普及によって、人々の動向や社会の動きを示すデータの取得が以前よりもはるかに容易になった。
今後、IoT(インターネット・オブ・シングス/モノのインターネット化)が広がることで、
さらに広範で多様なデータが収集できることになるとみられている。
それらのデータは、広告やマーケティングをどう変えていくのか。
アドテクノロジーの専門家であるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の徳久昭彦と、
マーケティング/クリエイティブの専門家である博報堂の安藤元博が語り合う。

近づきつつある「デジタル」と「広告」の距離

安藤2014年、2015年と2年続けてカンヌライオンズ(カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)に参加しました。そこで強く印象に残ったのは、デジタルと従来型の広告の「距離感」のようなものでした。
 カンヌでは、デジタル分野の優れた作品を選ぶ「サイバー部門」は以前からあったのですが、「モバイル部門」や「イノベーション部門」が加わっていったり、今年は「クリエイティブデータ部門」が新設されたりと、デジタル関連カテゴリーが増えています。また、会場の周辺に設けられている企業ブースには、データ系、テクノロジー系のプレーヤーが数多く出展するようになっています。

徳久カンヌも「デジタル色」が強くなっているわけですね。

安藤そうなんです。そしてメイン会場でもセミナーではスピーカーたちが口々にテクノロジーによるマーケティングやビジネスの変革を語る。ただ、一口にデジタル、データ、テクノロジーと言っても、そこには大きく二つの側面があると思っています。フェスティバルの中心であるアワードに関してみている限り、デジタルやテクノロジーは「表現」に直結するところでの使用に偏っている。一方で世の中全体を見渡してみれば、それはより広い意味でのコミュニケーションビジネスの転換のドライバーになっているわけで、カンヌでもセミナーや会場周辺に林立する企業ブースではそちらが大きなテーマとなっています。つまり、そこにギャップがあるんですね。それがカンヌで昨年私が感じた印象でした。
 しかし、今年、メディア部門の審査員として再びカンヌに行って、そのギャップが埋まりつつあることを実感しました。プラットフォーム活用、あるいはターゲティングテクノロジーといったビジネスに直結するデジタル技術とクリエイティブアイデアを融合させた作品が賞を獲るケースが明らかに増えているからです。つまり、デジタルテクノロジーと従来型の広告産業全体の距離がぐっと縮まったということです。カンヌでのこの傾向は、今後ますます加速していくのではないか。私はそう感じました。

(写真)第62回カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル【クリエイティブデータ部門】銀賞受賞の様子。安藤をはじめ、制作に携わったグループ会社社員も壇上にあがり、表彰を受けた。

徳久以前は、広告クリエイティブなどの仕事をしている人たちにとって、テクノロジーやプラットフォームなどのデジタル領域は、ほとんど無縁の世界だったと思います。専門的で理解できない、だから自分には関係がない──。それがおそらく多くのクリエイターやプランナーの感覚だったのではないでしょうか。
 しかし、ここ数年で広告やマーケティングにおけるデータの重要性が高まることによって、デジタルの領域の人たちと従来の広告の領域の人たちとの間で「会話」が成立するようになったのだと思います。平たく言ってしまえば、理系の人間と文系の人間が、いわばデータという共通の言語でコミュニケーションをとることができるようになった、ということです。今の安藤さんのお話には、そんな背景があるように思います。

安藤おっしゃるとおりですね。広告クリエイティブは、人の気持ちに働きかけ、行動を促すことを本質的な目的としています。では、どうすれば人の気持ちに影響を与えることができるのか。それを考えるとき、社会の動き、マーケットの動き、その中における人々の動きを確実に捉えることができていれば、アイデアの可能性は格段に広がるはずです。その社会の動きや人々の動きをいきいきと捉える可能性をもつものが、すなわちデジタル技術によって新たに大量に生成されるデータです。

徳久データには新しいアイデアを生み出す力がある。

安藤そういうことです。新しい種類のデータによって「現在」を把握しながら、そこに表現のマジックを加えて、感情にまで働きかけていく。それができれば、誰も見たことがなかったような広告クリエイティブが生まれるはずだ。そのことに多くの人が気づいてきているように思います。

徳久一方のデジタル側のプレーヤーも、データを語ることができれば、その新しい可能性に寄与することができますよね。データによってクリエイターと会話ができるわけですから。それだけでなく、データに精通していれば、クライアントと目標や成果を共有することもできるようになります。
 逆に言えば、データに対する理解がなければ、プログラムを書くだけのエンジニアとなってしまうということです。データをコミュニケーションのツールとして活用しながら、デジタル以外の領域に積極的に関わっていくこと。それが今、デジタル側のプレーヤーには求められているのだと思います。

融合が新しい価値を生み出す

安藤私は5年ほど前に社内異動をして初めて、デジタルを専業とする方々と深く関わるようになったのですが、そこで非常に驚いたことがありました。デジタル業界における「マーケティング」と「クリエイティブ」という言葉の使い方が、私がそれまで馴染んできた広告業界のそれとはかなり違っていたことです。
 私の理解では、マーケティングの本質は企業と生活者が相互に働きかける過程を通じた「価値創造」にあります。しかし、デジタル業界ではほぼ「売り上げを上げるための施策」をマーケティングと呼んでいることも多いと感じたし、「マーケティング」がなぜか暗黙のうちに「効率化」のことを指していたりした。けれど、それらはマーケティングのある側面を示すものではあっても、マーケティングそのものではない。言葉の使い方、概念にズレを感じたわけです。
 「クリエイティブ」もそうでした。デジタル業界におけるクリエイティブは、単純に「制作行為/制作物」を意味していました。しかし私にとって、クリエイティブとは「一種の跳躍的な働きかけ、マジックによって、人の心や行動にそれがなければ想像もできなかったような影響を及ぼすこと」でした。非常に違和感がありましたね。

徳久その感覚は、私にもよくわかります。私がDACに入社したのは15年前でした。もともとまったく別業界の人間だったので、トラディショナルな広告業界とデジタル業界の両方にほぼ同時に接したわけですが、「言葉の意味がこんなに違っていていいのだろうか」と正直感じたものです。
 おそらく、その当時のデジタル業界のビジネスの射程は、現在よりもかなり狭かったのだと思います。バナーなどのインターネット広告のほかは、クライアントの売り上げをネットを使ってどう上げるか、というところがビジネスのほぼすべてであって、それゆえ、セールスがすなわちマーケティングだった。それはある意味では自然なことだったように思います。

安藤なるほど。デジタルが可能とする領域が狭かったから、おのずと言葉が意味するところも狭くなった。クリエイティブという言葉に関しても同じかもしれませんね。

徳久そういうことではないでしょうか。しかし、そのような感覚のずれは、最近になってあまり感じられなくなっていますよね。

安藤ええ。近づいているというか、一体化しつつあるというか。むしろデジタル業界からのアプローチだからこそより本質的なマーケティング像も提示されてきていると感じています。そこのずれは確実に少なくなっていますね。

徳久それはすなわち、デジタルの側が力をつけてきた、ということだと思うんです。この15年ほどの間に、デジタルができることは格段に増えてきて、さまざまな領域にデジタル技術が広がっていきました。最近話題になっているIoTやO2O(オンライン・トゥ・オフライン/デジタルとリアルをつなぐ手法)が本格化すれば、デジタルの領域はさらに広がっていくでしょう。

安藤広告業界全体が、デジタルのことを知らずにビジネスをすることは不可能になっています。従来の広告産業の側がデジタル領域からいろいろなことを学ばなくてはならないのは間違いありませんね。
 一方、こんなことも感じています。先ほども少し触れましたが、私が博報堂という会社に入って教えられ、常に実践しようとしてきたことは、自分たちの役割は「マーケットを創出することである」ということでした。何のとりかかりもないところから、社会を大きく動かしていくこと。クライアントの商品開発や事業開発から携わり、コミュニケーションの力で市場を作り、ビジネスを育てていくこと。それは広告会社にしかできない仕事である、と。その視点が、デジタル広告の領域ではまだ少し弱いのではないか──。

徳久確かに、デジタルの側はデジタルの世界で完結してしまっているところがまだあるかもしれませんね。デジタルの世界でお金を生み出せる錬金術を開発し、デジタルのエコシステムの中でビジネスが成立すればいい。そう考えている人は、依然少なくないと思います。

安藤もちろん、それはそれでいいんです。デジタルという領域に確かな足場をもって、そこで専門性を発揮することによって、クライアントや生活者のためになる価値を生み出していければいいわけですから。
 しかし、広告マーケティング業界全体で見れば、そのような領域と伝統的な広告会社がこれまで培ってきたビジネスの方法や考え方をうまく融合させていくことが必要になるでしょう。博報堂DYグループにおけるデジタル分野の強みは、まさにそこにあると思うんです。広告ビジネスのナレッジの長年にわたる蓄積と、デジタル領域の先端テクノロジーの力。それを上手に融合させて、これまでなかった新しい価値を生み出していける可能性をもつのは、事実上、総合広告会社グループだけです。その意味では、博報堂DYグループのデジタル分野は、まさしく世の中を先導するような仕事を目指せる場所と言っていいように思います。
(後編に続く) 

  • 徳久昭彦
    デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株) 取締役常務執行役員CMO
    2001年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC) に入社。日本のネット広告おける代表的メディアプラニングシステム ”AD-Visor®”、をはじめ、”FlexOne®”、”AudienceOne®”など、独創的かつ強力なアドテクノロジーの開発を指揮。
    現在は、DACのCMOとして新規プロダクトやビジネスモデル開発を牽引しつつ、ユナイテッド、博報堂アイ・スタジオ、メンバーズなどグループ会社や投資先のボードメンバーを兼任。
  • 安藤元博
    (株)博報堂 生活者データマーケティング推進局長/
    (株)博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンメディアマーケティングセンター長
    1988年博報堂入社。以来、マーケティング領域を専門として、多数のクライアント企業の事業開発、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2010年以降、博報堂DYグループのデジタル統合マーケティングの推進を中心的に担う。受賞歴:ACCグランプリ(2005/2011)Asian Marketing Effectiveness(Best Integrated Marketing Campaign)(2010)ほか。著書『マーケティング立国ニッポンへ』(共著)。
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